この「島しごと図鑑」を運営しているのが、株式会社島の人事部です。宮古島と石垣島の会社の採用を手伝っている会社で、代表取締役は千田泰平(ちだ・やすなり)さん。出身は仙台です。
自分たちのことを自分たちで書くのは妙な感じもしますが、ほかの会社に同じことを聞いている以上、ここだけ省くわけにもいきません。ほかの記事と同じ順番で、同じように書きます。
人事担当がいない会社の、人事部を引き受ける
島の人事部がしているのは、会社の採用に関わる仕事です。宮古島の求人サイト「みやこのしごと」と、八重山の「やいまのしごと」を運営しています。外国人材の特定技能管理と登録支援、それに採用のためのSNS運用支援も手がけています。
- みやこのしごと/宮古島専門の求人サイト
- やいまのしごと/八重山専門の求人サイト
- 特定技能管理・登録支援/外国人材の受け入れ
- 採用SNS運用支援/求人をSNSで届ける仕組みづくり
この会社が前提にしているのは、島の会社には人事担当がいない、という事実です。建築会社も、製造業も、製麺所も、いい仕事をしているところほど現場に人が張り付いています。採用だけを見る人を置く余裕はありません。
だから採用が必要になると、よくわからないまま新聞社に電話をして、求人を出してもらうことになります。本当ならSNSやウェブサイトで仕組みをつくるのがいちばんいい。でも、それを片手間でやるのは無理がある、というのが千田さんの見立てでした。
「じゃあその人事業務もうちがやりますよ、っていう」
採用の手段が、新聞とハローワークしかなかった
千田さんが宮古島に来たのは2022年1月です。会社を辞めて独立し、営業や人事のコンサルティング、組織開発をオンラインで請け負っていた時期でした。そのうちの1社から、宮古島でカフェを立ち上げるので現地に入ってほしい、と頼まれたのがきっかけです。
沖縄は観光で伸びている。宮古島もその通りでした。ところが、カフェの段取りが進んで人を採る段になったとき、手段が新聞と雑誌とハローワークしかないことに突き当たります。
これだけ人手が足りないと言われているのに、ここはこうなのか。カフェの立ち上げを終えて店長に引き継いだあと、地域の人と仕事がマッチングできる仕組みをつくろうと動き出しました。それがいまの会社の原型です。
最初の社名は「CHAKKAZAI(着火剤)」でした
始まりは個人事業主で、最初に付けた社名は「CHAKKAZAI」でした。自分が何かをできるわけではない。これをこうしたい、という強烈な思いがあるわけでもない。そういう自己認識が先にありました。
あるのは、地域でがんばっている人を支えたいという気持ちのほうでした。千田さんは自分のことを、ずっと2番手畑だった人だと言います。誰かの小さい火を燃え上がらせたい。その意味を込めた名前でした。
ただ、電話をかけて「CHAKKAZAIです」と名乗っても、相手には何も伝わりません。キャンプ用品の会社だと思われることもありました。去年、社名を変えています。
選んだのは、いちばん分かりやすい名前でした。島の会社の人事部をやる会社だから、島の人事部。
塾講師にはまって、1年半留年しました
千田さんは仙台の出身で、大学進学で福島県に移りました。始めたアルバイトが塾講師です。本当は居酒屋で働いてみんなで飲む、という大学生らしい時間を想像していたといいます。
進路が変わったのは、弟さんのことがあったからでした。引きこもっていた弟さんに少しだけ勉強を教えたら、高校に通えるようになったそうです。
人は変われる。環境がそう決めているだけだ。そう思ったときに、自分の時間をお金と交換するのではなく、教育のような仕事に入ってみたいという気持ちが生まれました。家庭教師と塾講師を続け、自分では天職だと考えていたといいます。
それでも、別の疑問が出てきました。地球があって、日本があって、東北の福島県の、そのひとつの校舎。限られた環境でこれをやっていて、いいのだろうか。教育を届ける仕組みそのものをつくる側に回ろうと考え、一般企業への就職を決めます。
ところが、社会を見てみたい気持ちと、塾講師が面白い気持ちが同時に走りました。はまりすぎた結果、1年半の留年です。内定を2回辞退することになりました。
3回、スキルがリセットされました
途方に暮れていたところで決まったのが、ビルメンテナンスの会社でした。大学では日本拳法で東北6連覇、塾講師としても結果を出していたので、意気揚々と入社したそうです。そして、それまでの経験がまったく通用しませんでした。
千田さんはこれを「スキルリセット」と呼んでいます。ボコボコにされて、その会社である程度伸びたと思ったところで、IT系の会社へ転職。そこでもまたリセットがかかりました。
- ビルメンテナンスの会社
- プログラミングスクールを運営するIT系の会社
- 福岡の体験型コスメストアの会社
3社でリセットを3回受けて、最後の会社を辞めたときはコロナのただ中でした。何をやろうかと考えた先に、独立があり、宮古島があります。
入口をつくったら、次は出口をふさぐ

採用は入口です。入ってもらえても辞めてしまえば元に戻る、というのが次の課題でした。その出口をふさぐために、島の人事部はこれから教育の事業を始めようとしています。
商工会議所と連携して準備しているのが、業種を超えた合同研修です。12月14日から17日にかけて開きます。参加を表明しているのは、介護事業者が4社、宿泊が5社、建築会社が3社。ふだんは交わらない人たちが、同じ部屋に入ります。
研修のひとつは、こういう内容です。4人から6人で1グループになり、キットを1つ渡される。説明書を読んで、中身を組み立てて完成させてください、とだけ言われます。
わけもわからないまま手を動かして、できあがったものを見ると、義手でした。しかもそれは、東南アジアやアフリカで実際に使われる義手です。
組み立てが終わるまで、参加者は目の前の作業をしているだけです。それを作業と捉えるか、遠くの誰かのための仕事と捉えるか。千田さんはディズニーランドの話を引き合いに出していました。ごみを拾っているのか、夢を守っているのか。
宿泊施設も介護施設も、目の前の人に気持ちよく過ごしてもらうという目的は同じです。それでも業界が違えば、お互いの当たり前が新鮮に見える。そこを狙って業種を混ぜています。
研修にはもうひとつ役割があります。事業者が従業員に言いづらいことを、代わりに言うことです。会社の人が言えば「また言っている」と思われますし、強くも言えません。
たとえばホテルの身だしなみの規定には「華美ではないこと」と書かれています。どこまでがよくて、どこからがだめなのか。そのぎりぎりを突いてくる人には、外から「普通はこうだよ」と伝えたほうが早い、という話でした。
宮古島で働くためのリテラシーを教える
島の外から来て働く人に向けた研修もしています。内容は「宮古島リテラシー」。季節や風土、暮らしやすさとあわせて、守ってほしいことを伝えます。
御嶽のような場所への入り方。砂浜での直火。三角点。ホテルの制服のまま友人と写真を撮って投稿すること。昔なら誰にも知られずに済んだことが、いまはそうはいきません。
SNSですぐに広がり、その人がどこで働いているかまで分かってしまいます。結果として、勤め先のホテルに苦情の電話が入る。島の風景を大事にしている人ほど、それを見て落胆します。
宿泊事業者の内定者研修として、この内容を実施したこともあります。採用して終わりではなく、働き始めるところまでを見る。千田さんはここまでを人事の領域だと考えています。
行政や団体とも、組んでいます

採用支援の仕事とは別に、島の中の委員や講師も引き受けています。会社の外で地域の採用課題に関わる場が、年々増えてきました。
- 宮古島商工会議所/包括業務提携
- 宮古島市 総合計画審議会/委員
- 宮古島市 未来戦略会議/委員
- 宮古島市 創業塾/セミナー講師
- ひとり親家庭福祉会/AIセミナー講師
- 石垣市商工会/セミナー講師

宮古島商工会議所とは、人手不足の解消を目的にスキマバイトサービスの導入を支援する協定も結びました。市の総合計画をつくる審議会にも、未来戦略会議にも、委員として入っています。

高校生を交えて市の総合計画を話し合う場にも出ています。島の採用を外から見ている立場として、テレビの取材を受けることも増えました。外国人材の獲得競争が激しくなっている、という文脈で話したこともあります。

これからつくるのは「島の総務部」
人事の次に千田さんが見ているのは、総務です。AIとSNSを使って、一人親方でも仕事が回せる体制をつくる。そこから広げて、小さな会社のバックオフィスを引き受けようとしています。
説明には、具体的な例が出てきました。従業員9名の建築会社に、見積もりや請求、伝票発行といった事務作業があるとします。この9人とは別に、事務員を1人採らないと回りません。
その事務の人が子どもの都合で2、3日休んだら、仕事は止まります。たいていは代表が代わりにやることになる。現場から戻ってきて、今どこまで進んでいるのかを確認するところから始まります。
辞めるときも同じです。うまく引き継げればいいものの、空白ができると業務の水準が一気に下がります。ここに毎月かかっているお金は、決して小さくありません。
- 事務員1人の総支給額/20万円
- 会社の負担/24万5,000円
- 最低賃金が上がれば、この負担も上がっていく
同じ20万円を外注に回したらどうか、というのが千田さんの考えです。AIを使って効率よく作業できる仕組みをつくれば、1人で2社や3社を回せるようになる。単純に計算すれば20万円が3社分で60万円、生まれる価値はそれだけ上がります。
誰かが休んでも、別の人がフォローできる体制を組んでおけば、仕事は止まりません。それを会社の外側にまとめて置く。そういう構想です。
「事業者さんに本業に集中してもらいたい」
派遣で来る1万人を、住む人に変えたい
もっと先に、千田さんが島の大きな課題だと考えていることがあります。多くの事業者が派遣スタッフに頼っている、という状態です。
繁忙期には、住民票を移していない人がおそらく1万人近く島に入っているだろう、という見方でした。各事業者がやむを得ず、内地から人を呼び、住まいを用意し、働いてもらって帰ってもらう。その繰り返しです。
派遣スタッフの支援もしている立場でありながら、千田さんはその数を減らしたいと話しました。移住してみてもいいかもしれない、と思って、住民票ごと島に来る人を増やしたい。そのための母集団を厚くするのが先だ、ということです。
そこで鍵になるのが、どの業種が情報を出すか、でした。大手の宿泊事業者やマリン関係は、すでにたくさん発信しています。千田さんが必要だと考えているのは、そこではありません。
介護、建築、農業、漁業、保育、自動車整備。島の暮らしを支えている地場産業が、自分たちのことを自分たちで発信する。それがいちばん大事だという考えです。
本当は、島を出た人に戻ってきてほしい。ただしそれには給与の水準が上がる必要があり、中期の目標になります。短期で狙うのは、内地で同じ仕事をしていた人が、家族で宮古島に移って続けられる状態をつくることです。
派遣に余分に払っていたお金を、人件費に回せるようになれば所得は上がります。所得が上がれば、島を出た人が戻る条件も整う。遠回りに見えて、順番としてはつながっています。
このサイトが無料なのには、理由があります
最後に、この島しごと図鑑のことです。取材も掲載も無料で、取材先からお金をいただいていません。それには理由があります。
採用や教育に予算を取るのも大変な中で、広報に予算を持っている会社はほとんどありません。ここを有料にすれば、出せる会社だけが載ることになります。それは本意ではない、というのが千田さんの判断でした。
だから無料でいいから、まず集めきってしまおう、と決めたそうです。取材のときで記事は40本ほど集まっていました。載せたいのは大手だけではなく、地域の人がよく使っている店や、島の産業を支えている会社です。
会社の紹介だけで終わらせないのも、同じ理由からです。移住を考えている人が本当に知りたいのは、そこで実際に働いている人が何を思っているかのほうだ、という見方でした。
「役員層、代表が偉そうに理想を語るんじゃなくて」
島を出た人がこのサイトを見たときに、これは誰々さんじゃないか、と気づく。そういうことが少しずつ増えたらいい、と千田さんは話していました。この記事も、その一本です。
島しごと図鑑


