紫色のLEDの下で赤いレタスを手入れするスタッフ

株式会社エクサ

95パーセントは失敗します。宮古島の水と向き合う植物工場です。

宮古島の水は、薄い海水のようなものです。その水で、レタスを育てている会社があります。株式会社エクサの植物工場。研究開発を見ている取締役の小野奈都美(おの・なつみ)さんに、現場のことを聞きました。

「95パーセントぐらい失敗するんですよ」

苗の棚の前で作業するスタッフ

植物工場という技術は、世の中にすでにあります。ただ、それをそのまま持ってきても宮古島では動きません。
この島用にカスタマイズしたうえで、エネルギーや栽培資材もなるべく島の資源を使うようにすること等、ほかの植物工場がやっていない取り組みまでやる必要があります。

だから毎日、試行錯誤が入ります。

「正解がある世界ではないので、毎日これを変えてみよう、あれをやってみよう、こうしてみよう。で、失敗はつきものですし、まあ95パーセントぐらい失敗するんですよ」

1回失敗しないと、次にどちらへ進めばいいかわからない。そういう進み方になります。取材をした時点でも、ちょうど壁にぶつかっているところでした。道は見えていて、どこかに突破口があることだけはわかる。けれど、その突破口をひたすら探している状態です。

小野さんは、向く人と向かない人をはっきり分けて話してくれました。研究をしていた人や、自分で何かを作ってきた人にとっては、やってみて失敗するのは当たり前のことです。一方で、決まった仕事を着実にこなすのが得意で、なるべく変化をしたくない人には、極めて不向きな現場だといいます。

昨日と言っていることが、今日は違う。そういうことが起きるからです。朝令暮改どころか、朝令昼改ぐらいのことが起きる。それは申し訳ないと思いつつ、やらないと前に進めない。そういう現場です。

宮古島の水は、薄い海水です

では、何がそんなに難しいのか。その一つは、宮古島の水だから、です。

宮古島の水は硬水で、カルシウムが多く含まれています。知っている人には、こう言われるそうです。

「もうこれ、ほとんど海水だね」

飲める程度の、薄い海水。海水と同じ成分が入っているので、ミネラルが豊富だという言い方もできます。ただ、悪さもたくさんします。いちばん困っていたのが、pHの高さでした。6.0ぐらいのところが理想ですが、8台まで上がります。弱アルカリです。

下げなければいけないのですが、簡単には下がりません。もともと入っている成分に、もとへ戻そうとする動きがあるからです。酸をいくら足しても酸性に傾いてくれません。かといって強烈な酸を入れると、今度は植物に与える養液の栄養分そのものが変わってしまいます。ふつうの処方では、効いてくれないのです。

専門家が見に来ても、ここの水は難易度が高いと言うそうです。

クーラー1個の試作室から始まった

いまの工場の前に、小さな試作室がありました。10坪ほど、13メートル×3.5メートルの簡易施設です。

そこではレタスがまったく育ちませんでした。暑すぎたからです。クーラーを1台つけていたものの、簡易施設なので断熱がなく、まったく効きません。そこへLEDの放熱が加わって、30度まで上がってしまいます。

いまの工場は断熱をして、きちんとした空調を入れています。立ち上げたのは去年の4月で、社員が2名入りました。ただ、本当はもっと早くオープンする予定が、工事の遅れや契約の都合で後ろへずれてしまいます。広いところで試せないまま、もどかしい時間が続きました。

作物は、レタス・ベビーリーフ・サニーレタスの3種類を同時に始めています。先に収穫できたのは、生育の早いベビーリーフでした。

ところが、うまくいったのは最初の1〜2週間だけでした。そこから先は、きれいに育たない。カビが生えてしまうこともありました。培地に有機質のものを使っているので起こりうることですが、ひどいときは全部捨てることになります。農薬は使えません。

ベビーリーフは、いろいろな種類の葉の集まりです。種類によって反応が違い、こちらはうまくいっているのに、なぜこちらはだめなのか。なぜこの種だけ発芽してくれないのか。そういうことが起きます。

設備も、そのままでは合いません。従来とまったく違うやり方をとっているので、導入した機械をカスタマイズしていく必要があります。

いまは栽培の方法がある程度固まり、決まったところまではいくようになりました。それでも、チップバーンという生理障害は出ます。葉に黒い点々が出るもので、食べても問題はないのですが、見栄えがよくありません。

夏にキャベツが600円になる島で

ここまで手間をかけて、なぜ島でレタスを育てるのか。島の野菜事情を聞くと、理由がはっきりしてきます。

宮古島は、夏場の葉物野菜がとても弱くなります。一般の家庭も、飲食店も、宿泊施設も同じです。内地から仕入れても、船に3日揺られてくるのでくたびれた状態で届きます。そもそも船が入らないこともあります。

取材のなかで、キャベツが1玉600円だったという話が出ました。それでも買う人がいる、という状況です。だからこそ、エクサが目指しているのはここです。

島に生鮮野菜を安定して供給すること。そして、地域の人がそれを買えるようにすること。年間を通して、安定して生鮮野菜が手に入る状態を作ることが、大きな目標になっています。

そのために、値段を動かしていません。冬は市場に野菜が出回るので、植物工場の野菜は割高に見えて売れにくくなります。それでも、夏も冬も同じ値段で買える。その安心感を大事にしています。

内地の植物工場から見れば、この単価は破格だそうです。むしろ「こんなに安くて大丈夫ですか」と言われるほどで、もっと上げていいなら上げたい、というのが本音でもあります。それでも、同じ値段で出し続けることを選んでいます。納品先は、島のスーパーや直売所、そして島のホテルです。

レタスの他に、赤い野菜と食べられる花

理想だけでは、うまくいかない部分もあります。そこで取り組んでいるのが、レタス以外の高単価な作物です。なくてもいいけれど、あったらうれしい。そういう野菜です。

  • アマランサス/赤い野菜。スーパーフードと呼ばれるほど栄養価が高い
  • ビオラ/食べられる花。料理に添えると映える
  • ハーブ類/バジル、ミントなど

意外だったのが、バジルでした。島でよく見かけるので売れないと思って作っていなかったところ、飲食店が軒並み欲しがったのです。出回る量の変動がとても大きく、出るときはたくさん出るけれど、ないときはぱたりとなくなる。きちんと管理されたバジルが、あまり出回っていないようです。

アマランサスは、赤く発色させるのが難しい作物です。ほうっておくとすぐ緑になってしまいます。使うのは発芽してすぐのものなので、2週間ほどのあいだに売らなければいけません。こちらも、試行錯誤の最中です。

午前が定常業務、午後が研究開発

1日の流れは、はっきり二つに分かれています。

  • 午前〜13時/定常業務。パートさんが入る時間帯
  • 13時〜14時/昼休み
  • 14時〜17時/研究開発、実験的な取り組み。15時以降はフレックス

午後に余裕ができれば、伸びてしまった作物を刈ったり、実験的なことを試したりできます。ただし、それは午前の定常業務がスムーズに終わったときの話です。

そして、定常業務がスムーズに終わるかどうかは、研究開発がうまくいっているかどうかで決まります。そこでつまずくと、タスクが次々と後ろへずれていきます。だから、臨機応変に動ける人が必要になります。

働く時間については、はっきりしていました。残業はほぼありません。基本的に残業は出さない方針で、させたくもない。そのうえでフレックスなので、早く終われば早く帰ってかまわない、というスタンスです。

方向性を決める仕事

栽培庫の中での作業

この現場には、社員とパートさんがいます。その関係が、少し変わっています。

パートさんの仕事は、決まっていないと集約的に動けません。そこはがっちり決めます。けれど、毎日まったく同じでいいわけでもありません。決まったことをこなしてもらいながら、その都度出てくるイレギュラーに対応し、決まったことを少しずつ変えていく。

だから、社員の存在が効いてきます。社員が不在だったり、少し迷いがあったりすると、途端にパートさんたちも迷い出してしまい、労働効率が落ちます。逆に、今日はこれ、とパシッと決まっていれば、びっくりするほど早く終わる。頑張ってくださる方ばかりだからこそ、方向づけがそのまま効くのです。

生産効率を上げながら、新しい生産方式を模索する。この両輪を回していくのが、ここで働くということでした。

欲しいのは、コアになる2人

人の話になると、小野さんははっきり言いました。もう2人ぐらい、コアになってくれる人材が欲しい、と。

いまは、社員の判断だけで進められるのが全体の2割ほどです。残りは小野さんに連絡が飛んできます。どこに何個出すかといった細かいところは任せられるようになってきましたが、理想はもっと手が離れることでした。では、何を持っている人が向くのか。答えは、技術の話ではありませんでした。

  • 正しい報告・連絡・相談ができること
  • 起きたことを振り返り、勉強できること。勤勉であること
  • チャレンジングなことが好きなこと

植物工場の経験は、求められていません。そもそも小野さん自身の専門が、海洋生物だからです。いまも琉球大学で研究に関わりながら、個人のコンサルティングもしつつ、エクサには取締役として入っています。

まったく違う分野から来た人が、宮古島の水と向き合っている。この工場は、そうやって動いています。95パーセント失敗する。その言葉を、きつい現場の話として読むこともできます。けれど裏を返せば、残りの5パーセントを見つけた人が、島の野菜の値段を変えていくということでもあります。

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会社データ

会社名
株式会社エクサ
代表者
代表取締役 下地一雄/取締役 小野奈都美
設立
2024年(令和6年)4月
事業内容
野菜製造業(葉野菜等の製造と販売)
店舗
工場:沖縄県宮古島市上野字上野395-1
所在地
沖縄県宮古島市城辺字比嘉877-27
Webサイト
https://exa-pf.jp/

取材:2026年9月(内容は取材時点のものです)

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