溶接工だった人が、体験ダイビングで「笑いながら働ける仕事がある」と知りました。翌年には沖縄へ。いまは沖縄本島と宮古島でマリンアクティビティの会社を営んでいます。株式会社CREASPLUSの河野さんに聞きました。
笑って仕事ができる環境に、身を置きたかった

会社を始めた理由を聞くと、返ってきたのはとてもはっきりした一文でした。
「自分自身が笑って仕事ができる環境に身を置きたかった。っていうのがスタートですね」
もともとは工業高校の出身です。卒業後は溶接工として3年ほど働いていました。転機は、たまたま行った沖縄です。観光で体験ダイビングをしたとき、案内してくれたインストラクターの働く姿が目に焼きつきました。
「こんな面白い仕事、笑いながら働ける仕事があるんや、っていうのに興味を持って」
そう思った翌年には、もう沖縄にいました。本人の言葉を借りれば「武者修行」です。この仕事で食べていくにはインストラクターの資格が要るため、それを取るために働ける場所を渡り歩きました。石垣島で働き、沖縄本島で働き、大阪のダイビングショップでも働いています。海のある土地だけでなく、街のショップも経験しました。
いまの本拠地は沖縄本島です。読谷村で、ダイビングショップとゲストハウスを兼ねた「SeaMole」を営んでいます。青の洞窟のダイビングやシュノーケルは、ここから出ています。そして6月から、宮古島でパラセーリングのショップ「PARADISE」を始めました。
朝に機材を積んで、1日2回まわす

仕事は、大きく2つに分かれます。
- ダイビング関係(シュノーケル・体験ダイビングのガイド、インストラクター)
- パラセーリング(船長と、それに伴う補助)
1日の流れは、こうです。朝起きて機材を準備し、お客さんをバスでポイントまで送迎する。海でサービスを提供して戻り、シャワー施設を使ってもらって解散。これを1日に2回まわします。1組が終われば、次のお客さんがまた来ます。
海の上だけが職場ではありません。送迎のバスがあり、機材があり、シャワー施設がある。そのぶん、スタッフが動く場面も増えます。
現場も、いつも快適とは限りません。沖縄本島の真栄田岬のような場所では現地集合・現地解散になるため、屋根もない駐車場に自分の車を停めて、そこでお客さんを待つことになります。華やかに見える仕事にも、こういう時間があります。
船の運転は、2か月で覚えた
宮古島でパラセーリングを始めると決めたとき、河野さん自身に船を動かした経験はありませんでした。
「僕だって、船の運転したことなかった」
動き出したのは4月ごろ。そして6月には、もう宮古島で営業を始めています。その2か月で何をしたかというと、パラセーリングの船長をずっとやってきた人にトレーニングをしてもらったのだそうです。教えるのが上手な人で、2か月から3か月ほどでひとりで動かせるようになりました。
この経験が、会社の身軽さにつながっています。
「需要があれば、できるのかなとはちょっと思ってて」
ダイビングショップを一から立ち上げることを考えれば、パラセーリングはビジネスとして始めやすいのだといいます。未経験から2か月で始めた人の言葉です。
港に船を置けるかどうかで、商売が変わる
宮古島でパラセーリングができているのには、理由があります。港です。
5〜6年前、マリーナの利用について募集がありました。港が使えますよ、という話です。宮古島がいまのように注目される、ずっと前のことでした。もともとこちらでやってみたいと思っていたこともあり、その権利を取りに行きます。
この権利が、商売のかたちを決めました。
「港に止める権利があると、競争にならない価格帯でものを売れるんで。その辺はすごくやりやすい」
対照的なのが、シュノーケルです。極端に言えば、機材さえ持っていればサービスを提供できてしまいます。だから店が一気に増えました。
「1年で、こんなショップいっぱいあるみたいな感じ」
予約サイトが整ったことも大きい、と河野さんは言います。以前より簡単に勝負できる世の中になったぶん、価格の競争も起きやすくなりました。そのなかで、この会社は規模の割にスタッフを多めに抱えています。だからこそ、集客が止まれば立ち行かない。手離れの悪い商売にならないよう考えている、というのが河野さんの言い方でした。
鍛えられることと、防ぎきれないこと

河野さんが、いちばん言葉を選んで話したのが安全のことでした。
お客さんの数が増えれば、それだけ確率の話になってきます。技術で防げることと、防ぎきれないことがある。河野さんは、そこを分けて話していました。
「スタッフの能力だったりとかは鍛えられるけど、やっぱり病気を持ってる人はいますよ。そういう方にたまたま当たってしまったりすることで、事故が起きることのほうが多い」
ガイドをつけていても、つきものだと言います。売上に対して負っているリスクは、たぶん高いほうだと思う。そう言い切ったうえで、そこは改善していくつもりだと話していました。働く側から見れば、人の命を預かる仕事でもあります。
沖縄出身は、1人だけ
一緒に働くのは、こんな顔ぶれです。
- スタッフは夏場で18人ほど、冬は10人ほど
- 沖縄出身は1人だけ。関東からも関西からも来ている
- 採用で出身地は限定していない。海外から働きに来ることも否定していない
「沖縄の方は1人だけで、それ以外はもう、関東の方もいるし関西の方もいるんで。いろんなところから来てもらってます」
では、どんな人が向いているのか。そう聞くと、答えはひとことでした。
「やっぱり、海が好きな人間がいいかとは思うんですよね」
そのうえで、こうも言っていました。どんな人でも、目がついて足がついて、価値を生み出せたら残ると思う、と。
毎年6人、研修生が来る
未経験から入る道として、CREASPLUSには研修生の受け入れがあります。毎年6人ほどです。
お金のことは、河野さん自身がはっきり説明してくれました。基本給から、次の費用をまとめて差し引く形になっています。
- 宿泊(住む場所)
- ライセンスの取得費用
- 申請にかかる費用
- トレーニングの費用
そのぶん、手取りは少なくなります。ただしそこには、住む場所と、資格を取るための費用が含まれています。この仕事で食べていくには資格が要る、という話を思い出してください。河野さん自身が各地を渡り歩いて取ったものを、1年で用意する仕組みになっています。
1年目は、そうやって育てます。夏場はシュノーケルの現場に入ってもらい、ワンシーズンで契約はいったん終了。そこから残りたい人が残る、という流れです。全員が残れるわけではありませんが、最近は事情が変わってきたそうです。
「最近もう、むしろこっちが断るぐらい残っちゃうんですよ、みんな」
今年も6人が来ていて、そのうち2人はこちらに来そうだ、という話でした。いいムードではあるかな、と河野さんは言います。なお、この会社を出て独立していった人も何人かいます。通過点として使った人たちです。
1か月休みなしの夏と、3日しか出られない冬
この仕事の忙しさは、天気が決めます。
「夏場は台風が来なければ、それこそ1か月休みなしっていうこともあるし」
逆もあります。台風や低気圧が次々に来る冬は、月に3日しか出られなかった年もあったそうです。風速15メートル、波4メートルという日には、当然できません。
「すごい安定しないな、っていうのはありますね」
ただし、海に出られない日も仕事がなくなるわけではありません。夏のあいだにできなかったメンテナンスが待っています。船を上げて整備し、オイルを交換する。宮古島には船があるぶん、やることも増えます。お客さんがまったく来ない日は、年間でも数日しかないそうです。
「全く仕事がないことのほうが、少ないかもしれないですね」
頑張ったぶんが、報酬に返る
河野さんが仕組みとして作っているのが、報酬の設計です。お客さんには写真などのオプションを案内し、それが売れたら売上の一部をプールしてスタッフに配分します。配分の率は、能力によって変わります。
案内する人が増えれば、会社の売上も、その人の手取りも一緒に上がる形です。
「よくあるじゃないですか。売上だけ上がって、スタッフは何も変わらないとか」
そうはしたくない、と河野さんは言います。
「売上も上がってちゃんと利益が出るのであれば、報酬は絶対に上がるっていうような報酬設計は、絶対してる」
だいたい、そのとおりになっているのかなと思う。そう振り返っていました。
スタッフを大事にすれば、お客さんを大事にできる
このサイトを読むのは仕事を探している人だ、と伝えると、河野さんは少し考えてからこう話してくれました。
「スタッフを大事にすれば、きっとお客さんを大事にできると思うんで。だから、そういうプロセスで質の高いサービスを提供する会社ではいたいと思います」
お客さんのために頑張れ、という順番ではありません。スタッフとの関わり方について聞くと、返ってきたのはひとことだけでした。
「極力叱らないように」
これから先のことも、いくつも動いています。シュノーケル事業は来年オープンの予定。那覇でもパラセーリングを始めようとしていて、そのためのトレーニングを宮古島で受けている人がいます。
さらにその先として、福岡の名前も出てきました。ただ、ここは慎重です。人が集まる土地でも、沖縄のようにリゾートとアクティビティが結びついているとは限りません。人はいるけれど需要がない、ということもありえます。それでも、ある程度の観光客が入っている島なら面白いかもしれない、と言います。
「船さえ置ければ、やりたいっすよね」
島しごと図鑑


